【書評】ベルガリアード物語

ファンタジー作品レビュー

ベルガリアード物語 評価:★★★★★(実質評価5.8)

ベルガリアード物語は、その後マロリオン物語へと続き、外伝的な魔術師ベルガラス・女魔術師ポルガラへ続く一大長編のファンタジー作品(以下、本シリーズ)です。以下は本作のみならず、本シリーズを総合した評価をします。
本作は50歳代のエディングスが書いたデビュー作品ですが、デビュー作とは思えない完成度の高さを誇る、本格派ファンタジー作品です。

本シリーズの特徴は、破綻のない世界と、計算し尽くされた人物が織りなすユーモア溢れる人間関係に尽きます。
その魅力は、16,7年前に本作を初めて読んでから今まで、私の小説ランキングのトップを常にキープし続けており、通読回数は100回以上に達する事から想像してもらえればいいかもしれません。
普通の作品であれば20回も通読すれば飽きるものです。しかし本シリーズは、随所に散りばめられたほんの小さな伏線も回収しきる筆力と深みのある登場人物によって、読み込めば読み込むほど、毎回新たな伏線を発見したり、人物の隠された心の機微に気づいたりと、飽きることがありません。
これは言い換えれば、ひとつの小説として非常に高いレベルで完成されているとも言えます。

本シリーズの世界構成のしっかりした骨太な設定は、指輪物語のような背景設定のみで一冊本が出されるほどに作り込まれています。同様に、登場人物に関しても性格設定に揺らぎはなく、なかでも特筆すべきは感情表現および発言における表現の多様さにあります。例えば「笑う」という行動一つとっても、にやりとする・大笑いをする・くすくす笑う・いたずらっぽくわらう・ずるがしこそうに笑う等々多様な表現があり、そのどれをとっても登場人物の個性を表現するために、各所で使い分けるべき表現です。そして、そのような細かい表現が積み重なり、行動の選択方法と相まって、作家の人物性格設定が描写に反映され、読者はその描写から人物性格設定を再構築することが可能となります。
回りくどい書き方でしたが、わかりやすく書けば、登場人物の行動・表情・発言が細かく書き込まれていることにより、あたかも一つの人格がそこにあるかのように、くっきりと人物の輪郭を見せることができる。ということです。
そして重要なのが、その人物の人格が、ある状況でこのような行動を取るのは納得できる。と読者に思わせる事が出来ている所です。たとえその行動がいかに突拍子のないものであっても、納得できるだけの詳細な書き込みがすでに行われているため、読者は違和感を覚えることなく、スムーズに読み進めることができるわけです。

ジャンル作品(推理小説とか、ラブロマンスとか、SFとかファンタジーとか)は色々ありますが、どのような作品でもそれは小説であることにはかわりません。小説である以上、ジャンルのギミックにこだわる以前に、小説として成り立っていないといけません。
小説として成り立たせる時に大事な物。それは詳細です。ディテールが書き込まれていなければ、読者には伝わらず、読者に伝わらない以上、それは作家の自己満足作品でしかありません。
特にファンタジーでは詳細が重要です。他のジャンル作品は現実が一定のベースになりますが、ファンタジーは完全に架空の世界が舞台であるので、ディテールがおろそかになるとリアル感がまるでなくなってしまいます。
架空の世界のリアル感というのは矛盾した言い方に思えますが、小説というものが登場人物を通した追体験を読者に提供する以上、リアル感は必要不可欠です。
なぜなら、とってつけた表現や展開は読者を白けさせ、物語の世界への没入を妨げてしまうからです。よって、全ての表現や展開は、作品中において描写されたことによって説明可能でなければなりません。つまりそれこそがリアル感なわけです。全ての表現や展開が説明可能になって、初めてその小説は一つの閉じた世界になり、破綻の生じない(リアルな)架空世界として成り立つわけです。
ベルガリアード物語から続く一連の物語には、そのリアル感があります。何度も通読した結果、非常に小さな疑問が1,2点あるだけで、それを除けばこの世界には破綻がまったくありません。これは驚くべき事です。

そして小説として次に大事な物、それは人間描写です。
ジャンル作品のギミックというのは、ジャンル作品であるという証明以外、実はたいした意味はありません。ギミックの整合性を楽しみたければ、設定資料集かなにかを眺めればいいのです。
それとは逆に、小説は読者が登場人物の「追体験」をするものである以上、人物の描写がしっかりしていなければいけません。世界設定と同様に、人物の行動に破綻があってはいけません。人物の行動もまた、作品中において描写されたことによって説明可能でなければなりません。
たとえば、人物が意外な行動を取るのは、小説において読者を引きつける不可欠な仕掛けですが、その意外さというのは、すでに描写された人物像の中におさまらなければならないという事です。
これができているファンタジー小説はとても少数です。他のジャンル小説は舞台が限定されているため、人物描写に労力を割けますが、ファンタジーは世界の描写と人物描写を同時にかつ詳細に行わなければなりません。
本シリーズはその両方の描写を高いレベルでこなしている、極少数の作品のうちの一つです。また、本シリーズのもう一つの、そして最大の特徴である、人物のユーモアの表現。これが非常に秀逸です。
ユーモアの表現というのは、当然ながら作家のユーモア性を越えることはありません。苦心してユーモアを書こうとしている他作品との大きな違いは、エディングスのユーモア感覚が、他の作家から抜きんでているという事です。
外国人のユーモアというと、ミスタービーンのような大げさで馬鹿馬鹿しいものと思いがちですが、エディングスのユーモア感覚は、ウィットに富んだ控えめで意表を突く、非常に鋭いものをもっています。
これにより、人物の性格描写にさらに深みが加わり、えもいわれぬ魅力的なキャラクターが誕生するのです。
よく日本では軽々しく「キャラクターが立つ」などと言いますが、そのような事を言う人はエディングス作品を読んだことがないのでしょう。「キャラクターが立つ」の本当の意味を、エディングス作品によって知って欲しいと思います。

ファンタジーの長編作品は、巨悪を倒すというファンタジーの王道から、作品世界が陰鬱になりがちです。しかし、本シリーズは登場人物がユニークかつユーモアに溢れており、世界設定は王道に忠実な陰鬱なものでありながら、登場人物のユーモア表現があまりにも際だって明るいため、まったく悲壮感がありません。
そのため読んでいて常に楽しく、それがまた本シリーズの最大の売りでもあるでしょう。
エディングスの技量もさることながら、翻訳者の宇佐川氏の表現力があってこそ可能となった、エディングスワールドがそこにあるのです。
そしてその楽しさと、登場人物の人数が一般の海外作品よりも少ない事から、本格的な海外ファンタジーを読むのが初めてなライトノベル読者にもお勧めできます。
本シリーズはそのような初心者から、いくつもの世界を見てきたスレた上級者まで、幅広く楽しめる作品です。

デイヴィッド・エディングス著 / 宇佐川 晶子訳
早川書房 (2005.2)
ISBN:4150203806 ¥861
デイヴィッド・エディングス著 / 佐藤 ひろみ訳
早川書房 (2005.3)
ISBN:4150203830 ¥987
デイヴィッド・エディングス著 / 佐藤 ひろみ訳
早川書房 (2005.4)
ISBN:4150203865 ¥945
デイヴィッド・エディングス著 / 柿沼 瑛子訳
早川書房 (2005.5)
ISBN:415020389X ¥1,029
デイヴィッド・エディングス著 / 柿沼 瑛子訳
早川書房 (2005.6)
ISBN:4150203911 ¥987

デイヴィッド・エディングス著 / 宇佐川 晶子訳
早川書房 (2006.1)
ISBN:4150204071 ¥1,050
デイヴィッド・エディングス著 / 宇佐川 晶子訳
早川書房 (2006.2)
ISBN:4150204098 ¥1,050
デイヴィッド・エディングス著 / 宇佐川 晶子訳
早川書房 (2006.3)
ISBN:415020411X ¥1,029
デイヴィッド・エディングス著 / 宇佐川 晶子訳
早川書房 (2006.4)
ISBN:4150204136 ¥1,050
デイヴィッド・エディングス著 / 宇佐川 晶子訳
早川書房 (2006.5)
ISBN:4150204152 ¥1,050

デイヴィッド・エディングス著 / リー・エディングス著 / 宇佐川 晶子訳
早川書房 (2005.7)
ISBN:415020392X ¥882

デイヴィッド・エディングス著 / リー・エディングス著 / 宇佐川 晶子訳
早川書房 (2005.8)
ISBN:4150203954 ¥882

デイヴィッド・エディングス著 / リー・エディングス著 / 宇佐川 晶子訳
早川書房 (2005.9)
ISBN:4150203970 ¥882

デイヴィッド・エディングス著 / リー・エディングス著 / 宇佐川 晶子訳
早川書房 (2005.10)
ISBN:4150203997 ¥882
デイヴィッド・エディングス著 / リー・エディングス著 / 宇佐川 晶子訳
早川書房 (2005.11)
ISBN:4150204020 ¥882
デイヴィッド・エディングス著 / リー・エディングス著 / 宇佐川 晶子訳
早川書房 (2005.12)
ISBN:4150204055 ¥882

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【書評】ベルガリアード物語” への3件のフィードバック

  1. ゆたぽん のコメント:

    なかなか面白そうですね。
    欲しいと思ったら、すぐ欲しいので本屋に行ったら、案の定、置いてなかったw
    やっぱネットで注文するしかないかなー。

  2. 疾風 のコメント:

    某うっかり忍者さんには、書評自体読む気がしないと言われたw
    このシリーズ、長いこと絶版だったのよ。で、やっとおととしあたりから
    新装版で復刊されたって関係で、書店では新鮮みがないような扱いを受けとりますw
    ネットで注文が早いと思うよ。amazonにも在庫あるし。
    最近では本屋は立ち読みして、面白そうなモノを探すだけの所と化してる(^^;

  3. Nove のコメント:

    う~ん、懐かしいw と言うかここまで深いコメントを書く師匠に頭が下がりますm(_ _;)m<スゴイヨ、シショウ 
    上手いコメントが書けなくて残念なのだがおいらが一番好きなファンタジー小説はピアズ・アンソニィの「魔法の国のザンス」です☆従来のファンタジーの描写とは少し変わっていて、愛らしい生物が多く出てくる。そしてファンタジーと言いながらも時間軸が現在に通じており、一種のパラレルワールドとなっている。小説の中にはパソコンも(しかも生物として!?)出てくるので驚きですw師匠も読んだことあるかな?
    後はベルガリアード物語も好きだし、ドラゴンランス戦記も好きだったなぁ~。これらの小説は捨てられずに本棚の彩りをなしております。
    ファンタジー小説は肩身が狭くてつらい;;面白い作品が結構多いと思うのだが・・・・・

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